2003/03/09

重加算税等の判断基準

正しい記帳と申告が貴社を守ります

−国税庁が重加算税等の判断基準を公表−

規制緩和と技術革新がダイナミックに進み、今やわが国の産業界には、力強い企業家精神による創業や経営革新が求められています。そしてその反面で社会的公器としての企業の存在が問われ、会計の透明性と法令・規範の遵守(コンプライアンス)が不可欠とされる時代となりました。

こうした中で、国税庁から『法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)』(平成12年7月3日付)が発表され、重加算税の対象となる「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装」の具体例が明らかにされました。

事業者が税金を逃れるために帳簿に売上を過少に記載したり、金額等を改ざんするなどの不正行為を行うと、重加算税が課せられ、本来納めるべき税金に加えてさらに35%〜40%増の税金を負担しなければならなくなります。「脱税」は法律に基づいて負担すべき税金を逃れることを意味し、企業の社会的責任を放棄する重大な犯罪といえます。

本誌では、国税庁の発表に基づいて具体的にどのような行為が重加算税等の対象になるのか、またこうした事態を避けるために、事業者として日頃何を心がけるべきかについて解説します。

重加算税の「仮装・隠ぺい」の具体例(法人税)

重加算税の対象となる「仮装・隠ぺい」の具体例が表示されました。法人において、仮装隠ぺいとみなされるケースは次のとおりです。

仮装・隠ぺいになる場合の例

@二重帳簿を作成していた。

A帳簿及び書類を隠したり、偽りの記載などをしていた。

B税務申告で提出する証明書などを改ざんしたり、偽りの申請で証明書等の交付を受けていた。

C簿外資産(確定した決算の基礎となった帳簿の資産勘定に計上されていない資産)に係る利息収入、賃貸料収入等を計上していなかった。

D簿外資金(確定した決算の基礎となった帳簿に計上していない収入金、又はその帳簿に費用を過大もしくは架空に計上することにより帳簿から除外した資金)で役員賞与その他の費用を支出していた。

E同族会社なのに、株主に架空の者や単なる名義人を記載して、非同族会社として申告していた。

仮装・隠ぺいにならない場合の例

【前提】

証しょう書類等の破棄・隠匿や改ざんなどの不正行為が行われていないこと。

売上などの収入の計上を繰り延べている場合に、その収入が翌事業年度の収益に計上されていることが確認された。

経費の繰上計上をしている場合にその経費が翌事業年度に支出されたことが確認された。

店ざらし状態等の棚卸資産を評価替えによって過小評価している。

決算の基礎となった帳簿に、交際費や寄附金のような損金算入限度額のある費用を、他の費用科目に計上している。

「帳簿書類の隠匿、虚偽記載」とは?

「帳簿書類」とは、現金出納帳、会計伝票、総勘定元帳などの帳簿と、原始記録、領収書などの証ひょう書類、契約書、請求書、貸借対照表、損益計算書、勘定科目内訳明細書、棚卸表その他の決算に関係のある書類などを指します。

帳簿書類の「隠匿、虚偽記載など」とは、以下のような場合です。

@帳簿書類を破棄・隠匿している。

A帳簿書類の改ざん(偽造や変造を含む)、帳簿書類への虚偽の記載、相手方との共謀による虚偽の契約書や請求書、領収書等の作成、帳簿書類の意図的な集計違いにより経理を仮装している。

B帳簿書類の作成をせず、又は帳簿書類への記載をせず、売上やその他の収入(営業外の収入も含む)を漏らしたり、棚卸資産を除外している。

使途秘匿金については

法人税関係では、使途秘匿金についても明らかにされています。使途秘匿金とは、法人の支出のうち、相当の理由がなく、相手の氏名(名称)及び住所(所在地)、その事由などが帳簿書類に記載されていないものをいいます。

使途秘匿金に対しては、通常の法人税額に加えて税率40%による法人税が追加課税されていますが、次のような不正事実がある場合は使途秘匿金に係る税額に対して重加算税がかけられます。

@帳簿書類の破棄、隠匿、改ざん等があった。

A取引の慣行、形態などから、その支出金が通常計上すべき勘定科目に計上されていない。

 

消費税、源泉所得税の重加算税の対象となる不正事実

消費税についても、消費税固有の不正事実の例が示されています。消費税固有の不正事実の例

課税売上げを、免税売上げに仮装する。

架空の免税売上げを計上し、同額の架空の課税仕入れを計上する。

不課税又は非課税仕入れを課税仕入れに仮装する。

非課税売上げを不課税売上げに仮装し、課税売上割合を引き上げる。

簡易課税制度を選択している事業者が資産の譲渡等の相手方や内容などを仮装して、高いみなし仕入率を適用する。

源泉所得税については、次のとおりです。

源泉所得税の不正事実の例

二重帳簿を作成している。

緒簿書類を破棄又は隠匿している。

帳簿書類の改ざん(偽造や変造を含む)、帳簿書類への虚偽の記載、相手方と共謀しての虚偽の証ひょう書類の作成、帳簿書類の意図的な集計違いその他の方法で経理を仮装している。

帳簿書類を作成せず又は帳簿書類への記載をせず、源泉徴収の支払事実の全部又は一部を隠ぺいしている。

なお、ここでいう「帳簿書類」には次の書類が該当します。

源泉所得税の徴収に関する備付帳簿(所得税源泉徴収簿など)

源泉所得税額の計算の基礎資料となるもの(株主総会・取締役会議事録、報酬等の契約書、給与等の支払規則など)

源泉徴収義務者が法令に基づいて作成・交付・提出する書類(支払調書など)

源泉所得税を徴収される者が法令に基づいて提出・提示する書類(給与所得者の扶養控除等申告書など)

 

過少申告加算税、不納付加算税

過少申告加算税及び無申告加算税などについての基準が明らかにされています。

1.過少申告加算税について

納税者に対する税務調査、取引先への反面調査又は申告書の内要検討後の非違事項(違法な事項)の指摘等によって、その納税者が調査があったことを知った後で修正申告書を提出したような場合には、「更正があることを予知してされたもの」とみなされ、過少申告加算税の対象となります。

ただし、税務調査の日時の連絡を行った段階で修正申告書が出されたような場合は、原則的には「更正があることを予知してされたもの」に該当しないとされました。

2.不納付加算税について

源泉所得税を法定期限までに納付しなかったとき「正当な理由」が次のように示されました。

「正当な理由」の例

税法の解釈に関する相違で、給与等の支払後、その取扱いが公表された場合で、源泉徴収義務者の解釈に相当の理由がある場合。

給与所得者が記入した配偶者特別控除申告書などにミスがあり、それに基づいた控除が過大になった場合で、源泉徴収義務者の責任ではない場合。

税金の納付を委託した金融機関の事務処理の誤りなどによって納付が法定納付期限後になったことをその金融機関が証明した場合。

災害や交通・通信の途絶などのやむを得ない理由がある場合。

なお、単に税法を知らなかったり、誤解や事実誤認は「正当な理由」に含まれず、不納付加算税の対象となりますので注意しましょう

 

青色申告の承認取消し基準

青色申告の承認取消しについて、次の基準が示されました。

青色申告の承認が取り消される場合

税務調査で帳簿書類の提示を再三求められたにもかかわらず正当な理由なく拒否した。

税務署長の指示に従わなかった。

仮装・隠ぺいに基づく所得金額が、更正・決定した所得金額の50%を超えるとき。など

ただし、過去7年以内の各事業年度で次の@、Aのいずれの要件も満たし、かつ今後適正な申告をすることを申し出たときなどは青色申告承認の取消しが見合わせられます。

@青色申告承認取消処分を受けていない。

A過去の調査における不正所得金額又は不正欠損金額が500万円に満たない。

なお、青色申告承認の取消処分のあとに帳簿書類を提示しても認められません。

日々の正しい記帳と適正な申告が企業を守ります。

今やわが国では、企業の経営革新等が叫ばれる一方で、会計の透明性と法令・規範の遵守(コンプライアンス)とが強く求められる社会へと移行しつつあります。

こうした中で、「脱税」は、企業の社会的不正の筆頭とみなされ、厳しい措置の対象とされています。経営者は、このことをしっかりと念頭におき、正々堂々とした経営を心がけましょう。そのためには会計専門家の指導のもと、日々誠実に記帳を行い、正しい申告をすることが不可欠です。

毎日の記帳をつけるのは確かに大変です。しかし、正規の簿記の諸原則に基づいて記帳された会計帳簿には証拠能力があり(刑事訴訟法第323条)、それがいざというときに事業者や企業を守ります。

また、正しい記帳に基づく月次決算を行うことによって、経営判断のもととなる自社の正確な経営データが入手できます。さらに会計専門家の指導に基づいて信頼性の高い決算書を作成することは、税務当局はもとより金融機関、取引先等からの信頼を高めます。

日々誠実な記帳を行い、正しい申告をすることは、企業の社会的信用を高め、あなたの会社とあなた自身を守ります。

 

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