助川公認会計士事務所 |
企業会計 |
04/10/28 |
帳簿の役割 |
◇なぜ帳簿をつけなければならないか?
・江戸時代でも商売熱心な人は帳簿をつけていた?明治時代以降、近代的な納税制度が導入され、明治20年から現在のような所得税制度が始まりました。これによって、商人は帳簿をつけなければならなくなったわけですが、それ以前はどうだったのでしょうか。
実は、江戸時代においても、法律等で義務づけられていたわけではないのに、商売熱心な商人たちは大福帳に債権・債務を正確に記載していたようです。彼らは、商売上、帳簿を非常に重要視していたのです。
・帳簿をつけることは取引上必要不可欠
帳簿をつけることは、まず取引の備忘用としての必要性があったと考えられます。というのも、事業が継続し信用が高まるにつれて、商品(製品)の引き渡しや受け入れ、役務の提供などについて現金取引が少なくなり、信用取引が多くなっていくため、それぞれの取引を忘れないように記録しておく必要があったからです。また、債権(売掛金など)や債務(買掛金など)を正確にすばやく把握することによって、誤りのない資金繰りや資金計画が可能になるからです。
このように税金があろうとなかろうと、事業を行う上で売掛帳や買掛帳などの帳簿付けが必要であったのです。これは現在でも変わりません。
・帳簿の役割
現在、企業会計には「制度会計」と「管理会計」とがあり、帳簿には重要な役割があります。
(1)制度会計 企業を取り巻く外部の利害関係者への報告のため、商法や税法等で一定の帳簿の作成が義務づけられています。帳簿は企業を存続させるためにも必要です。 (2)管理会計業績管理や利益計画など企業の経営管理のために、コンピュータ等を利用して制度会計の入力データから管理会計資料を作成して同業他社との業績比較をしたり、業績検討等を行うことができます。
したがって、日々の記帳に始まる制度会計上の適正な処理を行い、正確に月次決算を実施することは、単に決算・申告のためだけでなく、業績管理等の精度を高め、的確・適切な経営判断を下すために重要なのです。
・日々の誠実な帳簿づけが企業を守る
企業側において、正規の簿記の諸原則に基づいて記帳された会計帳簿には、最終的な証拠価値があります。つまり、企業が日々誠実に記帳した帳簿は、異なる外部証拠がない限り企業を法益上守ってくれるのです。
−事例1− |
A会社の経理担当者は、初めは手間がかかり面倒だと思いながらも毎日伝票を書くようにしていた。領収書はスクラップブックに貼って通し番号をつけ、それぞれに摘要をしっかりと記載し、1日の終わりには、金庫の金種まできちんと調べて現金収支日報に記載していた。ある日、税務調査が入ったが常々会計事務所から日々きちんと帳簿をつけ適正に経理処理しているから証拠力もあると聞いていたので、自信を持って調査を受けることができた。調査の結果、これといった指摘もなく無事終了した。 |
こうしたことは、税務に限ったことではありません。
−事例2− |
海女であるBさんは、白色申告者であったが帳簿は欠かさず毎日つけていた。ある日、近くの海岸にタンカーが座礁し、重油が流れ出して漁ができなくなった。この事故に対して県から休業補償が出るということになり、その帳簿を持っていったところ、それをもとにすぐ所得が算定され休業補償を受けることができた。 |
このように、自社を守るのは、日々誠実につけている帳簿以外にないのです。
・記帳された帳簿等は整理保存する日々誠実に記帳された帳簿は、きちんと整理保存しておかなければなりません。
特に、消費税で本則課税を選択している場合、仕入税額控除を受けるには、帳簿及び「請求書等」の両方の保存が必要です。この整理保存とは、単に保管しているだけでなく、「必要な書類をいつでも速やかに取り出せるような状況にしておくこと」であり、税務調査等の際にはすぐ提示できるようにしておかなければならないのです。
これに関連して、税務調査の際に、理由もなく帳簿等の提示を拒否したケースで、仕入税額控除が認められるかどうかについて争われていた事件で、東京地裁は「帳簿等の提示拒否は保存していない場合に該当する」として、仕入税額控除の適用は認められないとする判断を示しました。
・記帳はすべて自社のためにある帳簿を日々つけるのは確かに大変です。しかし、それがいざというときに自社を守ることになり、同時に、経営資料となって経営の見直し等に生かすこともできるのです。また、金融機関から融資を受ける際の有効な資料にもなります。
毎日帳簿をつけるのは、誰のためでもありません。実は自社のためなのです。