助川公認会計士事務所 | 人事労務 | 04/10/28 |
労災保険と健康保険 |
ケガや病気をした際の保険給付が、労災保険によるのか健康保険によるのかといったことは、知っているようであまり理解されていません。従業員本人(被保険者)について見てみましょう。 |
*業務上や通勤途上のケガなどは労災保険(労働者災害補償保険)
従業員が業務上又は通勤途上で被ったケガや病気、障害あるいは死亡に対して保険給付が行われるほか、被災した労働者や遺族の生活を保護することなども目的としています。
つまり、業務上あるいは通勤途上の災害、例えば、仕事中や通勤の際にケガなどをしたときは労災保険の対象となります。
*業務外のケガや病気等は健康保険
従業員が業務外の理由によってケガや病気、死亡又は分べんしたときは、健康保険によって保険給付が行われます(従業員の家族〔被保険者〕のケガや病気、死亡についても健康保険で行われます)。つまり、業務上又は通勤途上の災害以外の災害の場合です。
あくまでも健康保険の給付は「業務外の理由によるもの」であり、例えば会社で業務中に起こった事故によるケガなどは、健康保険ではなく労災保険の対象になります。
*「業務上」か「業務外」か
業務上の災害か業務外の災害かは、その事故がその業務を行っているとき(業務遂行性)の事故であるかどうか、またその業務を行うことが原因となっている(業務起因性)かどうか、その事故が業務と密接な関係(業務との因果関係)にあるかどうかによって判断されます。
<業務上となる場合(一例)>
仕事中のケガのほかに、例えば、次のようなケガも業務上の災害となります。
●出張中のケガ
●仕事の準備あるいは後始末の際のケガ
●事業場施設の不備や欠陥によるケガ
●自社ビル内での転倒や階段からの踏み外し、ドアや机等にぶつけてのケガ
●業務命令で宴会や運動会などに参加した際のケガ(出勤扱いや旅費等が支給されているなどの一定の条件を満たしていることが必要)
●就業時間中の生理的現象(トイレに行くなど)の際のケガ など
<業務外となる場合(一例)>
●就労中における私的行為によるケガ
●休憩中の私的行為によるケガ
●天変地異(地震や嵐など)によるケガ など
*「通勤途上の災害」か否か
通勤とは、「労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除く」とされています。この通勤による負傷や疾病、障害又は死亡を通勤災害といいます。
なお、仕事や通勤とは関係のない用件で合理的経路をそれたり(逸脱)、通勤経路上で通勤とは関係のない行為を行った場合(中断)、それ以後は一切通勤とは認められません。ただし、日常生活に必要なことをやむを得ない理由により最小限の範囲で行う場合は、その間を除き、元の通勤経路に戻った後は通勤と認められます。
<通勤災害となる場合(一例)>
●通勤途中の駅の階段や路上での転倒によるケガ
●通勤のバスや電車での打撲
●通勤途中、独身者が食事のため食堂に立ち寄った後に通勤経路に戻ってからのケガ
●日常生活に必要な行為(クリーニング店への立ち寄り、病院等での治療、選挙の投票など)の後に通勤経路に戻ってからのケガ
●通勤途中に経路近くの公衆便所を使用した際のケガ
<通勤災害とならない場合(一例)>
●私用で通勤経路をはずれてからのケガ
●休暇中に私用で会社に行く途中のケガ
●通勤途中に映画鑑賞した後のケガ
●友人宅から直接出勤する途中にケガ
●通勤途中に飲み屋で腰を落ち着けて長時間飲んだ後のケガ など
労災保険で治療を受けるには? |
労災保険指定の医療機関では、所定の書類を提出すれば原則的には無料で治療が受けられます。
労災保険指定医療機関以外では、一度、治療費を立て替えて支払うことになります。そしてその治療費を所轄の労働基準監督署に請求して還付を受けます。なお、健康保険で受診した場合は、速やかに保険組合等に連絡して労災保険のの変更手続を行います。
*第三者による災害にあったら
第三者の行為による災害とは、例えば自動車に乗っているときに追突されるというような、本人の不注意等が原因ではなく自分以外の第三者が原因となって起こる災害です。
この災害が業務上又は通勤途上の事故で労災保険から給付を受ける場合は労働基準監督署に、また業務外で健康保険で給付を受ける場合は社会保険事務所等に所定の届を出します。なお、自動車事故の場合、原則として、自動車賠償責任保険から支払を受けた後に、第三者に対する損害賠償請求と労災保険あるいは健康保険などと調整することになります。
※自動車事故にあい健康保険での診療を求めた場合、健康保険を取り扱っている医療機関はこれを拒否できないことになっています。なお、事故にあって健康保険で受診する場合は、健保組合等にその旨を届け、示談にする場合は健保組合等に相談してください。
8月は健康保険・厚生年金保険の被保険者報酬月額算定基礎届の提出時期です。健康保険等に関連して、ケガ等をした場合の保険給付について解説します。 |
1労災保険・雇用保険の手続き
主な手続きとしては、「年度更新手続き」があります。これは、雇用保険料と労災保険料をあわせて労働保険として、毎年1回、保険年度(4月1日から翌年3月31日)の初めに1年分のおおよその額(概算保険料)をまとめて申告・納付し、翌年度の初めに確定した保険料(確定保険料)と清算するというものです。
2健康保険・厚生年金保険の手続き
主な手続きとしては、「被保険者報酬月額算定基礎届」がります。これは毎年1回、8月1日現在の従業員(被保険者)全員を対象に5月から7月の3ヵ月の報酬額の平均を社会保険事務所(又は健康保険組合)に提出し、標準報酬月額を決定するというものです。原則的には毎年8月10日までに提出し、決定された標準報酬は、随時改訂が行われない限り、その年の10月1日から翌年9月30日まで適用されます。その他に、従業員を採用したときや転勤があったとき、退職者が出たときなどにその都度行わなければならない手続きがあります。
なお、標準報酬月額は、原則的には介護保険料を算出する際にも用いられます。
3労災保険の給付
病気やケガをしたとき 療養(補償)給付(療養の給付)
立替え払いをしたとき 療養(補償)給付(療養費の給付)
病気やケガで会社を休んだとき 休業(補償)給付
病気やケガが1年6カ月経っても治らないとき 傷病(補償)年金
身体に障害が残ったとき 障害(補償)給付(一時金又は年金)
死亡したとき 葬祭料・葬祭給付 遺族(補償)給付(一時金又は年金)
4健康保険の給付<被保険者に対する給付>
病気やケガをしたとき 療養の給付
治療費を立替え払いをしたとき 療養費の給付
一部負担金が一定額を超えたとき 高額療養費
病気やケガで会社を休んだとき 傷病手当金
お産したとき 分べん費 育児手当金 出産手当金
死亡したとき 埋葬料(費)
※被保険者に対する給付もあります。