助川公認会計士事務所 | 人事労務 | 04/10/28 |
賞与のあり方を考える |
賞与の支給時期がやってきました。依然として景気が厳しい状況が続いていますが、自社における賞与のあり方について、今一度考えてみてはいかがでしょうか。
◇賞与の比重はまだまだ大きい
諸外国では、賞与の比重は極めて少なく、夏のバカンス手当とクリスマス手当が少々という程度で、その賞与すらない企業も少なくないというのが現状です。もっともエクゼクティブな立場の管理職や専門職だと、我が国では考えられないほど高額な賞与を受け取っているようです。しかし全体から見れば、我が国の賞与は諸外国に比べて高額で、給与に占める比重は大きいのが現状です。
◇賞与には「生活一時金」との意味合いがあるが・・・
賞与が生活費の補填として位置づけられたのは、終戦後の生活困窮に労働者が直面していたときですが、それ以来未だに賞与にはその意味合いが色濃く存在しています。現に、生活費そのものといわないまでも住宅や自動車のローンの支払いなどでは、賞与も組み込まれています。
また、従来の賃金のあり方と同様に、賞与もまた勤続に連動した要素がかなり強いようです。実際、こうしたことを反映して、多くの企業では次のような支払われ方が行われています。
(1)基本給に連動させた支給
例えば「基本給の2倍」とか「基本給の1.5倍」といった形で基本給に連動させて賞与を支払うというもので、多くの企業で行われています。これは基本給そのものが勤続、職責、職能といった要素を反映しており、これらの要素を基準に賞与の額を決めることにはそれなりの合理性があるといえます。
(2)額で決めて個人に配分
基本給に連動させず、例えば「1人平均50万円を支給する」といった形で労使間で賞与を決めることがあります。つまり、支給額を全体で決めた上で個人に差を付けて配分するのですが、ただ配分の仕方が難しいようです。
◇大手企業では「業績連動型賞与」を導入
もともと賞与は、企業の業績に応じて支給するというのが建前です。一部の大手企業では、より業績に連動させようと「業績連動型賞与」を導入するようです。この「業績連動型賞与」とは、賞与の総原資を決める際の支給月数を業績に連動させ、支給月数の算出根拠を明確にしようというものです。具体的には、例えば鉄鋼では、生計費など生活を維持していく固定部分と企業実績を組み合わせた「固定部分+変動部分」方式を導入する方針です。
このように、現実には生活費としての比重が軽くなってきており、業績をより反映する方向になっていくことは間違いありません。
◇企業の業績を公開し本人の成果にも配慮
賞与では次のことがポイントです。
(1)業績を社員に公開する
賞与では、当期に上げた企業の利益をどれだけ社員に分配するかが重要な問題です。しかしそれには、自社の財務内容をできる限り公開しておくことが必要でしょう。というのも、業績が上がり利益がでたから賞与の支給につながったということが明確であれば、社員に対するインセンティブとしての意味があり、社員の仕事に対する意欲をさらに駆り立てることにもなるからです。逆に業績が上がっていないことが社員に明確になっていれば、「賞与の支給を手控えさせて欲しい」としても納得が得られやすいのです。
(2)本人の能力と成果を反映させる
賞与では、社員本人の能力と成果が、査定に際してかなり色濃く反映されるものです。というのも賞与の本質は、利益の分配とともに本人の生産性をどれだけ企業に貢献させたかというところにあるのです。これもインセンティブの意味合いが強く、それゆえに賞与を効果的に支給すべきでしょう。
◇賞与を支給できない企業は?
業績が上がらず、賃金カットをせざるを得ない場合、企業はまず月例給与ではなく賞与に手を付けることになります。しかしここで最も大切なことは、どれだけ社員の理解を得ることができるかということです。賞与が支給できないからといって優秀な社員が去ることなく「今、我慢すれば必ず業績は回復する。そのときはきちんと報いる」ということで納得してもらうことです。
ただし、納得してもらうためには、こうした状況に至る前に、どれだけ回避努力がなされたかという事実がなくてはなりません。また前述したように、社員に自社の財務内容を公開しておくことも必要です。
◇年間収入の考え方も必要
我が国では、賞与も含めた年間収入という考え方は比較的薄いようです。しかし社員にとって「自分は年収何百万円の社員なのだから・・・」という自覚は大切であり、企業においてもまたそのような視点で賃金をとらえることが必要です。
ところで、年間収入と年俸は異なります。年俸はすべて基本給であって減収になる場合もあり得ますが、一方、年間収入には月例給与と賞与が混在していて減収になることは極めて少なく、業績が比較的安定している場合には、この年間収入がほぼ固定しているのでとらえやすいのです。
したがって、賞与だけあるいは月例の給与だけをとらえて検討するのではなく、「年間収入」という観点から賞与等を考えることも必要となってきているのではないでしょうか。