助川公認会計士事務所 | 経営管理 | 07/09/16 |
社内不正と問題点 |
1.社内不正とは
社内不正といえば、新聞紙上を賑わすような大企業の社員が引き起こした巨額不正に目が奪われがちですが、社員による不正は、大企業よりむしろ中小企業に多いのが実態のようです。 中小企業における社内不正のほとんどは、経営者の不正に対する認識不足や、不正を未然防止・早期発見する会社経理の仕組みの不十分さに起因しているといって良いでしょう。 不正の要因が排除され、経営者と社員がお互いに信頼しあえるような職場にしていくには、不正の起きにくい社内の仕組みをつくることが不可欠です。
社内不正は、主に次のように分類することができます。
(1)粉飾決算
主に経営者によって行われる不正であり、財務諸表上虚偽の表示をすることをいいます。たとえば、都合のよい財政状態または経営成績を表示するための資産の過大表示や負債の過小表示、重要な情報の開示の欠如等があります。
(2)資産の不正流用
いわゆる「使い込み」と呼ばれるもので、金銭・物品の横領・着服を伴うものをいいます。従業員の不正の多くは、会社財産の横領・着服によって行われます。このタイプの不正について説明します。
2.従業員による不正のパターン
従業員が行う会社財産の横領・着服は次のようなパターンで行われるといってよいでしょう。
(1)従業員が単独で行う不正
1人の従業員が極秘裏に会社のチェックをかいくぐって行うもので、一般的に大きな金額にはなりにくい不正です。しかし、従業員による不正で最も多いのがこのパターンですので注意が必要です。
(2)従業員同士の共謀による不正
複数の従業員が共謀して行う不正は、単独の不正に比べて大規模・複雑になってきます。たとえば、出納担当者と承認者とが共謀すれば出納事務手続きがフリーパスとなり、不正は発見しにくくなります。
(3)従業員と会社外部の者との共謀
従業員が取引先など会社外部の者と共謀して不正を行うケースは、もっとも不正を発見しにくいパターンだといえます。たとえば、ある従業員が取引先と共謀して取引先から受け取る請求書を偽造させて不正をはたらいたとしたら、会社内部の資料からではチェックが及ばず、不正発覚は非常に困難となります。
3.従業員による着服・横領に見られる動機や手口の特徴
(1)動機は突発的
不正の動機として多いのは、ある職務について1人の従業員だけが行っているような場合に、その従業員の業務は誰からもチェックを受けないことから、ある時「ちょっとした出来心」で会社の金銭等に手をつけてしまったというケースです。はじめは不正の意図はそれほどなく、「ただ借りるだけ」といった気持ちで行ったものが、次第にエスカレートしていき、横領・着服等につながっていくと考えられます。
(2)手口は単純だが、反復・継続的に行われる
従業員による不正の手口というのは、手の込んだ複雑なものは意外と少なく、発覚してみれば極めて単純なものであることが多いようです。しかし、手口は単純であっても経営者のチェック機能が不備で不正を発見する仕組みが整っていない会社では、早期発見できることは極めて稀です。そして、不正が発覚しないことがわかるとその従業員は同じ不正を何度も繰り返すという結果を招きます。
(3)放っておくと次第に被害が大きくなる
従業員による不正は1回ごとの金額がたとえ小額でも、(2)で述べたように何度も繰り返し行われると、会社の被害金額はどんどん膨らんでいくことになります。また、不正が発覚しないのをいいことに、1回の着服額もだんだんと多額になっていく傾向があります。
4.どんな従業員に注意すべきか
従業員の中に以下のような人物がいる場合には、不正の起きる可能性が高いと考えられます。すべてがそうであるとは限りませんが、こうした人物に注意を払うことは、不正の未然防止・早期発見につながります。
@給与その他の収入に比較して、本人または家族が身分不相応で贅沢な生活をしているという風評をもつ人
A頻繁に高級な飲食店に出入りし、身分不相応な遊興をするという風評をもつ人
B異性関係が派手であるという風評をもつ人
C悪評のある人物と交友関係があるという風評をもつ人
Dサラ金、手形割引商といったところに出入りしているという風評をもつ人
Eギャンブル、株式・商品相場等に熱中しているという風評をもつ人
F土地家屋の購入、保証債務の弁済、親族の援助等のため、金銭的に困っているという風評をもつ人
G多額の蓄財・散財があるが、その資金の出所に現実性がないという風評をもつ人
H勤務中に外出したり、休日出勤が頻繁にある人
I勤勉性、快活性、明朗性等に欠け、日常の勤務態度に異常な変化がみられる人
5.不正が起きやすい会社の問題点
(1)職務が1人の従業員に集中している会社
たいていの中小企業では従業員数が少ないので、日常業務を細かく分けて複数の従業員に分担させることができません。したがって、1人の従業員がまとまった職務を任され、結果としてその職務について一切の権限を持つようになる場合があります。また、長年勤務している従業員に対しては経営者もその者に対して過度の信頼を寄せ、職務を任せきりにする傾向が強くなります。このような会社では、日常業務に経営者のチェックが入りにくく、不正が行われる可能性が高いといえます。また、不正が行われていても発見されないことがあります。
(2)経営者が金銭的にルーズな会社
中小企業では、経営者が会社のオーナーであることが多く、その場合、経営者は会社財産を自由に使うことができる立場にあります。しかし、このような公私混同は会社全体に金銭的にルーズな雰囲気を生み出し、従業員による不正が発生しやすい土壌をつくります。経営者は自らの襟を正し、従業員との信頼関係の構築に努めなければなりません。
(3)不正を防止する仕組みが十分でない会社
中小企業では、大企業のような業務管理の仕組みを確立することは物理的にも経済的にも困難であり、また、(1)及び(2)で述べたように経営者の不正に対する意識が欠如しがちであるため、不正を未然防止・早期発見する仕組みが十分に整えられていないケースが多く見られます。このような会社では、それだけ不正が発生するケースが高くなります。
したがって、経営者と従業員がお互いに信頼し合える職場とするためには、少なくとも業務と管理を区別する仕組みを確立しておく必要があります。