助川公認会計士事務所 | 経営管理 | 04/10/28 |
資金繰り分析 バランスシートで支払能力をつかむ |
1.バランスシート(貸借対照表)で資金の調達と運用がわかる
決算書は会社の通信簿です。経営活動の全てが決算書に集約されているので、決算書を見れば会社の良し悪しや改善課題がわかります。支払能力はとりわけバランスシート(貸借対照表)に表れるので、資金繰りを分析するにはこの見方を理解しておくことが必要です。
バランスシートは借方に資産、貸方に負債と資本が記載されており、貸借のバランスが合うことからこう呼ばれていることはご承知の通りです。
貸方は資金がどこから入ってきたかという資金の「調達源泉」を表しているのに対して、借方はその資金が何に使われたという「運用使途」を表しています。
貸方の資金の調達源泉は、企業自身が調達した資金である「資本」と、他から調達した「負債」とに分かれます。「資本」は返済を要しませんが、「負債」は支払いや返済の義務があります。そして負債はさらに、1年以内に支払いを要する流動負債と1年を超えて長期間で支払えばよい固定負債とに分かれます。
他方、運用使途である「資産」は、1年以内に資金化する流動資産(この中には資金化している現金預金が含まれています)と、1年を超えて資金化する固定資産とに分かれます。
企業の支払能力は、これら現金預金の割合や流動資産と流動負債の割合などによって判断されます。
バランスシート(貸借対照表)
資金の運用使途 | 資金の調達源泉 |
流動資産 | 流動資産 |
預金、売掛金など | 買掛金、短期借入金 |
固定資産 | 固定負債 |
建物、機械、 | 長期借入金 |
資本金 |
2.流動比率
流動資産 | =流動比率 |
流動負債 |
流動負債に対する流動資産の割合を流動比率といいます。分母の流動負債には買掛金・支払手形のような営業上の買入債権の他に、1年以内に支払いを要する借入金や未払金などが含まれています。
これに対して分子の流動資産には現金預金、売掛金・受取手形などの営業上の売上債権、棚卸資産、1年以内に入金となる未収入金などが含まれています。
算式からわかるように流動比率は、1年以内に支払期限の来る債務に対して、その支払原資としての流動資産がどれくらいあるかを比率で表したものです。分子が大きいほど支払能力が高いと判断されます。
流動比率は銀行家比率ともいわれ、銀行が企業に融資する場合に、安全性を判断するために用いた比率で、昔から200%が適正といわれてきましたが、通常130%くらいあればいいといえます。
現金商売や在庫の少ない経営状態では流動比率は低くなる傾向がありますが、支払能力が必ずしも低いとはいえません。反面、流動比率は高くても、資産の中に不良債権や回転の悪い在庫などが含まれていては支払能力が高いとはいえません。
そこで、分子の流動資産から棚卸資産を除いた当座資産を流動負債で除した数値が当座比率です。当座比率は100%以上が安全経営の原則です。
3.固定比率
自己資本 | =固定比率 |
固定資産 |
流動比率が短期的な支払能力を見る指標であるのに対して、長期的な支払能力を見る指標に固定比率があります。これは固定資産と自己資本を対比して見ます。分子の自己資本は株主が投下した資本金と、利益の蓄積である利益剰余金を加えたものです。これに対して分母は固定資産です。
この比率は、土地建物や機械設備など回収が長期にわたる固定資産投資が、自己資本によってどれほど賄われているかを表しています。
固定資産は売掛金や棚卸資産などと違って、資金化するのに長期間を要します。すなわち固定資産は減価償却費によって長期にわたって回収されるものですから、短期借入金などで設備投資をした場合には返済原資が不足してしまいます。返済する必要のない自己資本によって賄われていれば安全性が高いというわけです。
固定比率は100%以上あるのが理想ですが、中小企業の平均は54%と低くなっています。
そこで、固定資産が自己資本で賄われない場合には、自己資本に固定負債を加えたもので固定資産が賄われているかどうかを表す固定長期適合率を見て安全性を判断します。固定長期適合率は、130%以上が安全圏です。
4.自己資本比率
自己資本 | =自己資本比率 |
総資産 |
自己資本比率とは総資本(総資産)、すなわち企業が使用している全ての資本に占める自己資本の割合で、この比率が大きいほど安全性が高いと判断します。
自己資本はすでに述べたように株主の投下資本と利益の蓄積分の合計額です。企業自身の資本ですから返済を要しません。返済を要しない資本が大きいほど借入金などの負債が少なくて済むので安全性が高くなるというわけです。加えて、借入金に伴う支払利息が少なくて済むので収益力の面からも有利です。
わが国の自己資本比率は、敗戦により著しく低下し、それが日本特有の金融機関依存型の経営を生み出す原因となりました。しかし、大企業は高度成長期や平成景気によって株式市場から多額の資本を集めるとともに、利益蓄積により自己資本比率を高めてきました。
これに対して中小企業では、自己資本の額は増加してきているものの、大企業のように株式市場から資本を調達することができず、設備投資の大半は銀行からの借入金に頼ってきました。この結果、大企業と中小企業の自己資本格差は大きく開いてしまったのです。
自己資本比率が40%以上は優秀、30%は良好といえます。中小企業の平均ベースは20%ですが、自己資本比率を高めることは資金繰りを良くするだけでなく収益性を高めるためにも欠かせません。