助川公認会計士事務所 | 経営管理 | 04/10/28 |
運転資本を診断する |
1.運転資本とは営業活動に必要な資本
バランスシートから運転資本(運転資金)を分析する方法を述べておきましょう。運転資本というのは生産や販売など営業活動に直接要する資本(資金)のことで、必要運転資本ともいいます。
営業活動を続けると商品・製品などの棚卸資産や売掛金・受取手形などの売上債権が発生します。棚卸資産は得意先のために準備している資産で、売上債権は得意先に与えている信用ですから、棚卸資産と売上債権は、営業のために自社が負担すべき資金量を表しているということができます。
しかし、反面、仕入れも掛けで行うので、買入債務が発生します。これは仕入先から受けている信用です。そこで自社が負担する資金量は棚卸資産に売上債権を加えたものから買入債務を控除した額となります。これを運転資本といいます。
例では売上債権は売掛金と受取手形の合計ですから1億9500万円。棚卸資産が7700万円。他方、買入債務は買掛金と支払手形の合計で1億2400万円。従って運転資本は1億4800万円と計算されます。
バランスシート(貸借対照表)
資金の運用使途 | 資金の調達源泉 |
売上債権 | 買入債務 |
1億9500万円 | 1億2400万円 |
棚卸資産 | 運転資本1億4800万円 |
7700万円 |
すなわち、営業活動をする上で1億4800万円の資本を負担しているということです。
2.増加運転資本とは何か
今期の運転資本が求められたところで、さらに前期の運転資本を求めてみましょう。
前期の運転資本は1億1700万円とすると、今期が1億4800万円ですから、この1年間で運転資本は3100万円増加したことになります。これは商売を伸ばすために新たに3100万円の運転資本が必要となったことを意味しています。これを増加運転資本といいます。
この増加分を増資など、自己資金で調達できればいいのですが、自己資金で調達できない場合には金融機関からの借入金で調達しなければなりません。このように、運転資本が増えるということは新たに資金が必要となることですから資金繰りの上からは好ましくないのです。
運転資本はどうして増加したのでしょうか。原因は、たとえば、3100万円の増加の原因は売上債権の増加にあるようです。前期の売上債権は1億5200万円とすると、売上債権が4300万円増加したことになります。他方、買掛債務も400万円増加したとしても、売上債権の方が大きいために運転資本が増加する結果となっています。この資金をどこからか新たに調達してこなければならなかったことを意味しています。
3.必要運転資本を日数で表す
会社のこの1年間で運転資本が3100万円増加しました。ところで、この3100万円万円の増加は良かったのでしょうか、それとも悪かったのでしょうか。
当社は売上高が10億8000万円から11億7000万円に8%も増加しているのですから、売上債権が増加するのはやむを得ないという見方もあるでしょう。
しかし、売上高の伸び率以上に売上債権が増加していれば問題です。この関係を見るには先に述べた回転日数を用いるとよくわかります。
今期の回転日数を前期のそれと比較したものを作成すると、たとえば、売上債権は前期51日から今期60日に9日も延びていたとします。もし、回収条件が同じであれば、売上高が増加しても、この回転日数は同じであるはずです。回転日数が延びたということは回収条件が悪くなったか、あるいは回収条件の悪い得意先への売上高の片寄りがあったことが予測されます。
4.運転資本の変化を見る
運転資本の変化をグラフで示してみましょう。
営業活動に使われる資本は、
a.仕入れから販売までの棚卸資産回転日数
b.販売から入金までの売上債権回転日数
の合計にかかわる資本でした。
これに対して仕入先から受ける資本は
c.仕入れから決済までの買入債務回転日数 にかかわる資本です。
これを表にすると
(前期)
棚卸資産回転日数28日 | 買入債務回転日数54日 |
売上債権回転日数51日 | 必要運転資本 25日 |
(今期)
棚卸資産回転日数24日 | 買入債務回転日数54日 |
売上債権回転日数60日 | 必要運転資本 30日 |
前期と今期の表を比較してみると、棚卸資産回転日数は短くなっているのに、売上債権回転日数が延びているのがわかります。買入債務回転日数も少し延びていますが、売上債権回転日数の伸びに比べると随分違います。
さらに、必要運転資本の日数が延びているのがわかります。この日数が延びた分だけ、新たな資金の調達が必要になったということです。いくらの資金が必要となったかは、この運転資本の増加回転日数に、1日の売上高を乗じることによって求められます。
なお、棚卸資産回転日数と売上債権回転日数の合計より、買入債務回転日数の方が長い場合には、その分が資金余剰となります。