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助川公認会計士事務所 BTkigyou.jpg (1685 バイト) 企業経営・マネジメント 04/10/28
経営戦略が最も重要である

中小企業の事例   

Q. S工業社長の場合

会社が存続し発展していくためには、『優れた人材』、『高い技術』、『豊富な資産』が重要であるとS工業社長が言う。会社が存続し発展するために、それで十分であろうか。  

A.

 会社が存続し、発展してゆくためには、「人材」や「技術」や「資産あるいは利益よりも、もっと重要なことがある。それは、経営戦略である。適切な経営戦略があ れば、人材、技術、資産が不十分であっても会社は存続し、発展することができる。 適切な経営戦略がなければ、「優れた人材」「高い技術」「豊富な資産」をもっていたとしても、会社は、発展することはできない。S会社の先代の社長は、適切な経営戦略を持っており、実行してきた。

ポイント1. 会社は、過去にどのように成長し、発展してきたかを分析し、過去成功要因を分析する。

ポイント2. 会社をとりまく経営環境を分析し、将来の成功要因を検討する。

ポイント3. 成功要因を獲得するための目標を行動計画が経営戦略であり、それが会社の存続、発展を保証してくれるものである。

  S会社社長は、38才。2代目社所長であるが、実の父である先代社長の急死により、5年前に社長に就任し、33才の若さから、会社を発展させてきた。S工業は、創立40年の歴史を持つ地方の部品メーカーで、大手家電メーカーの下請け会社である。売上高は、約20億円、従業員は90名である。

 その社長と決算打合わせの話の中で、「会社が存続し、発展していくためには、何が最も必要か」というテーマになった。

 「会社が伸びるためには、優秀な人材が必要だ。我社の親会社を見ていると、つくづく思うよ。あんな人材が、我社にいれば、我社は、もっと伸びることができるよ。」

 そして、我社は、技術力について、「今は、技術の進歩が早い。この技術の進歩に乗り遅れたら、会社は衰退していく。高い技術力は必要だ。高い技術力を身につけてより付加価値の高い製品を作っていかなければならない。

 今年の売上は、前年に比べ横ばいであったが、利益は前年比10%増と、まあまあの成果であった。社長は、利益について、「親会社からの注文が減ったため、売上高を確保することに必死だった。幸い電気工事関係の仕事を確保することができ、売上高は、前年並になることができた。また、経費の削減に努め、利益を伸ばすことができた。毎年確実に利益を出し、豊富な資産を築くことが重要だ。豊富な資産を築いておけば、将来、会社に万が一のことがあっても、会社は存続できる。」

 適切な経営戦略を策定するためには、S工業が、過去にどのように成長し、発展してきたかを分析し、過去の成功要因を明らかにすることが第1ステップである。

 S工業は、先代社長が、25才のとき創業し、電気工事の下請会社として始まった。その後、建設省の指名参加の資格を得て、国道の照明工事を受注し、発展してきた。官庁の大型工事については分離発注の方針がとられ、建設省、地方通産局、県庁などに窓口が分かれており、中小事業所においても受注の機械が増し、S工業も受注することができたのだ。

 S工業がこれまで発展してきたのは、優秀な人材がいたからではなく、先代社長が、官公庁から受注し、受注した工事を首尾よくこなしていったからである。

 この意見に、社長は納得できず、「上場企業などの大手企業には、優秀な人材が集まるからこそ、上場企業は売上を伸ばしているのだ。

 しかし、優秀な人材が集まっている上場企業でも売上が伸びず、収益悪化のため吸収合併されたり、倒産している所は、枚挙にいとまがない。優秀な人材が集まるのはその企業が魅力的だからである。S工業が魅力的な会社であれば、優秀な人材が集まってくるものである。現在は取締役のY氏も、18才で入社し、先代社長に鍛えられ、優秀な技術者になっている。重要なことは、人を育てること、育て方である。

 技術力について、分析する。

 15年前に、先代社長は、英断し、新型モーターの部品製造をおこなうことになった。S工業としては、未知の分野であったが、T電気の要請により先代社長が決断したものである。この新型モーターの部品製造で、S会社が飛躍するかっかけになった。社長が当時を振り返り、「新型モーターの部品製造技術を修得するため、当時の幹部技術者5名をT電機横浜工場に派遣した。4カ月間の長期間派遣で、川崎の親戚の家に寝泊まりしたと聞いています。幹部社員が社内に4カ月間もいない為、大きな電気工事の受注はキャンセルし、その期間の売上もダウンしました。また、最新鋭機械を導入する為、多額の借入金をおこなわなければならず、社長が毎日のように銀行に足を運んでいました。新入社員としての私の目からも、もしこの仕事に失敗したら、我社は倒産すると思いました。」

 当時、官公庁から受注する電気工事は、利益が薄く、将来の仕事量も少なくなりそうだった。そこで、新しい仕事を始める必要があり、新型モーターの部品製造という分野に飛び込んだのである。新しい事業分野を選びそのための計画を立て、実行し、その結果として、会社が生きていくための基盤を築くことができたのである。技術力というのは、先代社長が選んだ経営戦略の結果として、獲得できたものである。

 優れた人材や、高い技術力も、先代社長の経営戦略を実践した結果、生まれたものである。そして、S工業の現在の豊富な資産も、毎年の利益の積み重ねから生まれたものである。利益は重要なものであるが、利益は結果として生まれてくるものと考えるべきである。

 利益について、考える。

 新型モーターの部品製造を始めるとき、先代社長は、利益を犠牲にして、取り組んだ。つまり、幹部技術者を長期間派遣したり、多額の借入をして新機械を導入したりしなければ、前年並の利益をあげることができたのである。しかし、先代社長が、新しい事業分野に進出しなければ、S会社は、今日のように存続できたであろうか。官公庁から電気工事の受注を請け、薄い利益で存続だけはできたかもしれないが、今のような企業規模には発展できなかったであろう。現在の利益よりも重要なものが、経営戦略である。 過去の成功要因は、

(1)官公庁から、確実に、電気工事等の受注を請け負うことができた。

(2)新型モーターの部品製造分野に進出し技術力を身につけ、電気関係の部品製造メーカーとしての地位を確立した。

 第2ステップは、会社をとりまく経営環境を分析し、将来の成功要因を検討する。

 経営環境について、社長は、「今は、景気が悪いから売上が横ばいであった。景気が回復すれば、売上、利益とも伸びるよ。」

  しかし、S工業の経営環境は、厳しいものがあると、私は判断した。今期、売上が横ばいであったのは、大手家電メーカーT電機からの受注が大幅に減ったためである。この一社で、売上高の70%を占めている。このような取引構造は好ましいことではない。これまで、S工業が成長できたのは、T電機から注文をとってきたからであるが、将来はどうなるであろうか。T電機は、モーターの小型化、特殊化に十分に対応できず、価格競争力も弱くなってきている。S工業が製造している部品について、以前と同じように注文がくるかどうかわからない。

 それでは、どうしたらよいのだろうか。

 売上先が一社に偏るのではなく、新規顧客の開拓により、取引構造を安定化させる必要がある。今の技術力を生かして、数社のメーカーから注文をもらう構造にする。そのためには、営業組織をどうするか、営業拠点をどうするか、新たな技術の導入も必要があるかもしれない。このようなことを検討する必要がある。

 成功要因を獲得するための目標と行動計画が経営戦略であり、それが会社の存続・発展を確保してくれるものである。

 取引構造の改善については、今後実施していくことの一例にすぎない。私も社長も気が付かないことで、改善すべきことは、たくさんあるはずである。経営幹部の英知を集めて、中期経営計画を作ることにより、成功要因を獲得するための目標を設定し、目標の実現のための行動計画ができる。

 社長は、「経営計画は毎年作っているが、あの計画ではダメですか。」

 社長が言っているのは、今年の売上目標はいくら、利益目標はいくらという利益計画のことである。この計画書では、取引構造を改善するというようなことを盛り込むことはできない。三年間あるいは五年間という中長期的な経営計画を立て、経営体質の改善ということを目標としなければならない。適切な経営戦略を立てることは、なかなか難しいことである。3カ月から半年間にわたり、定期的な会合を開き、集中して経営計画の作成にあたらなければならない。

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