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助川公認会計士事務所 BTkigyou.jpg (1685 バイト) 企業経営・マネジメント 04/10/28
経営資源を集中的に投入する戦略
中小企業が選択と集中で勝つための条件
実験と機動によってスピードを加速する
外部資源を徹底的に活用する
独自の技術を保持する

1.戦略なき日本企業

かつてハーバード大学のマイケル・ポーター教授が、日本企業を詳細に分析した結果、「日本企業には戦略がない」という結論を下した。ポーター教授によれば、戦略とは「他社と違うことをすること」であり、そのためには「何をするかだけでなく、何をしないかを決めること」である。

確かに日本では大企業だけでなく、中小企業も横並び同質化競争をしてきた企業が少なくない。その結果、企業規模の大小にかかわらず、あれもこれもという総花的な事業展開や品揃えを進めてきてしまった。

多くの日本企業にとって、バブル崩壊後の十年とは、「リストラクチャリング」や「選択と集中」というかけ声だけが盛んであったが、実際には、業績不振を克服するための根本的な手を打つことなく、現象的な問題に対する小手先の対応と、重要な問題の先送りが続けられてきた。すなわち、戦略なき経営を続けた十年であったということができる。

例えば、平成13年11月に会社更生法の適用を申請した、新潟鉄工所のケースにその典型を見ることができる。同社の場合、一世紀を超える歴史の中で、次第に事業分野を広げ総合重機メーカーに成長した。ところが、主要部門でみると市場シェアが一、二位を占めるものがなく、競争力の弱い分野を数多く抱え込む結果になっていた。

2.選択と集中はなぜ必要か?

選択と集中というのは、総花的な多角化や品揃えから脱却して、少数の競争力の強い分野に絞り込んで、そこに経営資源を集中的に投入するという戦略である。

かつてのように経営全体が右肩上がりで成長している場合には、少しくらい市場シェアが低くても、生き残りが可能だった。しかし、経済成長率が低下し、産業が成熟化するにつれ、自社の得意分野を選択して、シェアアップを図り、一、二位に入るような地位を確立しなければ、生き残りに必要な利益を上げることは難しくなってくる。

こうした戦略をいち早く展開し、大きな成果を上げたのが米国のGEである。1982年に同社のCEOに就任したジャック・ウエルチ氏は、それまで350以上に細分化されていた事業分野を整理するために、「伝統的中心事業、ハイテク事業、サービス事業」という三つの分野で、かつ、「世界で一、二位になれる見込みのある事業」に限定することを宣言し、積極的なリストラクチャリングを推進した。同社は、現在では11の事業部門を抱えているが、そのいずれもが世界で一位ないし二位の事業であり、きわめて高い価格競争力と新製品開発力を誇っている。

80年代に、わが国企業との競争に敗れて、急激な業績悪化に見舞われたインテルが、それまでのメモリー半導体から撤退し、パソコンの心臓部であるCPUに事業分野を転換することによって、圧倒的なシェアを獲得することに成功し、高収益企業に生まれ変わったのも、選択と集中の結果である。

わが国でも事業・製品分野を競争力のある部分に絞り込んで、集中的に資源を投入することによって、高い業績を実現している企業である。IT不況が進むなかで、増収増益を実現し、創業以来の最高利益を上げているのがキャノンである。

同社の御手洗富士夫社長は「利益を生むことが会社の目的で、仕事は手段。日本人はしばしば手段と目的を間違えて、仕事に命をかけてしまう」(日本経済新聞/2001年3月13日付)と言うように、技術をベースとした多角化を進める一方、利益を生まなくなった事業を大胆に切り捨ててきた。最近でも、長年手がけてきたタイプライター、パソコン、光カードなどの不採算事業から次々と撤退している。同社にとって、生命線とみられる研究開発も例外ではない。「研究や開発は特殊なモノではなく、経営手段の一端に過ぎない。選択と集中を常にやっていく必要がある」(同上)

三洋電機も、IT不況の嵐に見舞われているが、同業他社に比べてその傷が小さいのも、選択と集中が功を奏しているためである。同社の場合は、デジタル機器の格になるキーデバイスで得意技術を活かすことによって、世界のトップを目指す「マーケットbP」戦略を展開してきている。競争の激しい半導体部門でも、33品目が世界のトップシェアを占めているし、携帯電話用電池でも世界市場の44%を握っている。「小さな池の大きなコイ」(同社桑野幸徳社長、日本経済新聞/2001年5月8日付)というように、特定分野に狙いを定めて、開発陣を総動員し、競合の少ない先行市場で圧倒的な優位性を築く。他方では、収益回復の見込みが薄い事業は、思い切った生産拠点の閉鎖や統廃合を進めるだけでなく、事業そのものからの撤退も決めている。

3.中小企業こそ経営資源の選択と集中を

これまで見てきたように、内外の大企業が思い切った選択と集中によって、高い成果を上げていているが、これはわが国の中小企業にとっても重要な課題になっている。いやむしろ大企業と比べて、経営資源の制約がはるかに厳しい中小企業こそ、選択と集中を大胆に進めることによって、二十一世紀を勝ち残っていかねばならない。限りある経営資源を有効に活用するために、どのような分野を選択し、集中していくべきかをもう一度きちんと考え、実行に移すべきである。

しかし、中小企業が大企業と同じような手法をとるだけでは、成功することはできないことも明かである。そのため、中小企業が選択と集中を進める上での重要なポイントを三カ条にしてみよう。

@実験と機動によってスピードを加速すべし

中小企業が選択と集中を進めるにあたっては、大企業にはない小回りの利く機動性を最大限に発揮して、その展開スピードを加速しなければならない。最近、大企業もカンパニー制や事業分社制によって、事業展開のスピードを上げようと努力している。中小企業が競争に勝つためには、それ以上のスピードをもたなければならない。

そのためには、選択と集中に加えて、「実験と機動」といったアプローチが求められるであろう。すなわち、一定の仮説に基づいて、小規模な実験を繰り返し、その経過を見ながら必要に応じて機動的に資源をシフトし、投入するという方法である。変化がますます激しくなるような状況下では、今後こうした仮説・実験・機動のスピードが資源の制約を克服する上で、重要な役割を果たすようになることは間違いない。

A外部資源を徹底的に活用すべし

中小企業が資源の制約を克服するもう一つの方法は、外部資源を有効に活用することである。

すべてを自社の資源だけでまかなおうとすれば、それだけ時間も掛かるし、コストもリスクも高くなる。インターネットの普及は、情報コストの大幅な低減を通じて、中小企業にとっても外部資源の発掘、調達を容易にする。事務用品の通販事業を展開するアスクルが急成長を遂げることができたのも、顧客とのやりとりだけでなく、仕入先や運搬業者などのパートナーとの情報のやりとりを迅速に低コストで実現できたからである。

B独自の技術は保持すべし

選択と集中とは、ただ単にどの事業や製品に絞り込むかを決めるだけではなく、そこで独自の価値を提供する仕組みや仕掛けを構築することを意味する。言い換えれば、これからの中小企業は、差別化するだけでは勝てない。独自化を追求すべきである。差別化という言葉が、競争企業と比べての微細な差異を強調するものであるのに対し、独自化という考えは、それを超えて、自社でしか提供できない価値を重視している。そのためには、顧客についての深い理解とともに、顧客価値を実現するための独自の得意技(コアコンピタンス)を極めなければならない。コアコンピタンスとは、競争上の優位性を確立するだけでなく、他社からは簡単にまねできないものである。それには、自社の持つ特殊な技術や技能に注目し、それをいっそう強化する必要がある。

 

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