助川公認会計士事務所 | 資金繰り | 04/10/28 |
上手な資金繰り |
Q
「利益は、前期の65%増。しかし、資金繰りが苦しく、今月末の手形を落とすため、銀行に借入を頼みに行く」 売上高が前期比12%増、利益が前期比65%増と、好業績を納めているのに、なぜこのように資金繰りが苦しいのか。利益が1億円以上ででいるのに、なぜ、預金が2千万円程度なのか。A社社長が私に、その理由を聞きに来た。 |
A
利益とは、収益から費用を差し引いたものである。資金の流れとは、直結していない。資金の流れを見るため、資金移動表を作って下さい。 ポイント 一.経常収支を重視すること。経常収支は、経常収入から経常支出を差し引いたものである。 二.資金移動表により、現金預金の増減の原因を分析する。 三.分析結果をもとに、今後の資金繰りを検討する。 |
資金繰りの事例
A社は、売上高8億円、従業員20名の電気工事業を営んでいる。当期は、売上高、利益ともに大幅に伸び、社長、従業員が喜んでいた。しかし、月末になると支払手形の引き落としに苦労するようになり、その原因を私に聞きに来た。
私は、過去2年分の財務諸表を分析し、資金移動表を作ってみた。財務諸表と資金移動表を身ながら、社長に説明した。
「売上高が伸びているのに、資金が不足するのは、どうしてですか」
売上高は、812百万円と前期比12%増加している。売上高が増加した分だけ、資金的に余裕が出てもおかしくない。資金移動表経常収入を見てみると、売上収入として812百万円が入金してくるが、売掛債権増加として、受取手形と売掛金が52百万円増加している。売掛債権の増加とは、売上は計上したが、その分は受取手形等の残高として残り、現金では回収していないことを意味している。その分は資金のマイナスとなる。A社の経常的な収入は、776百万円である。
売上原価、販売費及び一般管理費などの経常的な支出は、660百万円となり、経常収支は、116百万円である。A社の営業活動によって、約1億円の資金の余剰が生まれることになる。
「通常の営業活動から1億円もの資金が生まれているになぜ資金が不足するのですか」 設備などの収支を見ると、法人税等の支出が、45百万円あり、固定資産の増加による支出が、123百万円ある。固定資産の増加の内訳は、トラックなどの車の購入、事務所の増改築、ゴルフ会員権の購入である。固定資産は、減価償却という手段によって資金化される。当期の減価償却は20百万円であり、この分が「支払のない費用」として資金になる。ゴルフ会員権は、非償却資産であり、減価償却されないので、売却したときのみに資金となる。
設備などの収支は、176百万円の支出超過であり、経常収支116百万円よりも超過している。
超過額は、176百万円−116百万円=60百万円である。この資金の不足額60百万円は、借入金の増加40百万円と、現金預金の取り崩し額20百万円によって補われたことになる。
A社の資金繰りは、何に問題があったのであろうか。そのために、経常収支について、もう一度考えてみたい。経常収支とは一定期間における経常的収入と経常的支出を対比させ、動態的な支払能力を示すものである。経常収入は、経常支出を上回っていることが望ましい。経常収支比率が100%以上である必要がある。
経常収支比率= (経常収入
/ 経常支出) × 100経常収支比率が100%以下であれば、その会社は、経常的支出を経常収入でまかなえないことを意味しており、借入金を増やすなどして資金を手当している。
もし、100%以下が何年も続くようなら、倒産の危険があることを意味する。
A社の経常収支比率は、100%を越えており経常的な資金繰りには、問題がない。しかし、今期、固定資産を購入する際に、この資金を経常的な収支による資金で手当したため、資金繰りが苦しくなった。長期的な投資を行うときは、長期的な資金繰りを立てるべきであった。適切な資金繰りを立てて、投資をおこなったわけではないのである。
(資金移動表の作り方)
1.2期分の残高資産表を、表のような勘定科目に要約し、当期と前期との差額を計算する。
2.当期と前期との差額を資金移動表にあてはめていく。
3.売上、売上原価等の損益項目の金額を資金移動表にあてはめていく。
4.調整項目を使用し、次のように資金移動表を計算する。
支払のない費用=(退職給与引当金繰入)+(減価償却費) 固定資産の増加=(固定資産の前期と当期との差額)−(減価償却費) 法人税等=(未払税金等の前期と当期との差額)−(法人税住民税)5.現金預金の増加=(経常収支)+(設備収支)+(財務収支)となる。