助川公認会計士事務所 | 資金繰り | 04/10/28 |
見積資金繰り表の作成 |
「今度、機械を購入して設備能力のアップをはかりたいと思う。ついては、うちの会社の資金繰りはどうだろうか。銀行から見積資金繰り表を添付して欲しいと言われている。」 プラスチィク加工業のA工業且ミ長が、私に質問してきた。
A工業鰍ヘ、受注先の製品の関係から売上の季節変動があり、夏場は、売上が減少し、冬場は増加するようになっている。税金や賞与の支払、借入金の返済等を考慮し、新規にどれくらいの借り入れをすべきだろうか。
資金繰りに困ってはじめて資金繰り表を作ることが多い。いざ作るとなると、「代金回収の予定がたてにくい、売上の見積が難しい。」という声を聞く。しかし、売上入金が確実に予測できないからこそ、事前に対処する必要がある。そのために、見積資金繰り表を作るわけである。
見積資金繰り表は、実積資金繰り表が、なくても作成することができるが、精度の高い見積資金繰り表を作るためには、過去の実績資料が必要である。
今回は、A工業鰍例にとって、簡単な見積資金繰り表を作ることにする。
見積資金繰り表の作成手順
@ 見積損益計算書を作る
A 売上の回収条件(売掛金、受取手形)、仕入の支払条件(買掛金、支払手形)を明確にする。
B 借入金の返済、税金の支払、設備代金の支払等、経常外収支の内容を明らかにする。
・見積損益計算書は、前期の月別損益を参考に今期の受注状況と売上予測を加味し作成した。売上高、売上原価、営業費、支払利息のみの簡単なものである。
・回収・支払条件
売上の回収条件:すべて掛売り。翌月に半分を現金(振込)で回収し、残りの半分は手形で回収する。手形割引はしない。
仕入の支払条件:すべて掛仕入。翌月に半分を現金(振込)で支払い、残りの半分は手形で支払う。
営業費 :月平均700万円。ただし、7月と12月は、賞与の支払が300万円ある。営業費の月次での未払い計上はしない。
</DIV><DIV>
支払利息:月平均30万円ある。
・経常外収支
借入金の返済 :6月と12月に500万円の返済予定がある。
税金の支払 :5月と11月に750万円の支払予定とした。
設備代金の支払:5月に2000万円の予定である。
・4月初めの現金預金(資金)は、2450万円ある。
A工業鰍フ見積資金繰り表の作成
経常収入とは、通常の営業活動による現金の入金である。ほとんどが売上高の入金のはずである。見積損益計算書から、売上高の入金を見積もる。
4月の売上高、29,000千円は、そのうち半分14,500千円が、翌月の5月に入金され、残り半分が手形の期日落ちで7月に入金される。
4月 5月 6月 7月
売上高 29,000
売掛金回収 14,500
手形期日落 14,500
経常支出とは、通常の営業活動による現金の支払である。内容は、仕入代金の支払、販売費管理費の支払、人件費の支払、利息の支払などである。
4月の仕入(売上原価)19,000千円は、そのうち半分9,500千円が、翌月の5月に支払、残り半分は支払手形の期日落ちで7月に支払う。
4月 5月 6月 7月
売上原価 19,000
買掛金支払 9,500
手形決済 9,500
経常収支差額は、通常の営業活動による資金の収支差額である。
経常収支差額 = 経常収入 − 経常支出
A工業鰍ヘ、7月の賞与支払時に経常収支差額がマイナスとなっている。経常収支差額のプラス分で経常外の収支をカバーできることが望ましい。しかし、設備投資をおこなう場合、経常収支差額で、賄うことは難しいことが多い。その時は、長期の借入金で資金調達する。
A工業且ミ長は、見積資金繰り表を見て、 「資金繰りのことは、いつも頭の中にある。月末に手形を落とすために、銀行に頭を下げにいった。今度のボーナスの資金をどうしようかと悩むが、いつも、3ヶ月程度の資金繰りを頭の中で考えている。1年間の資金繰りを月別に見積もると、いつ頃が苦しいかがわかり、資金繰りに安心する。」
手持ち現金預金が、多すぎることは得策ではない。少なすぎるのは危険である。過不足なく、必要な手持ち現金預金を持たなければならない。将来を確実に予測できないからこそ、見積資金繰り表を作成して、事前に対処する必要があるのである。