助川公認会計士事務所 | 資金繰り | 04/05/29 |
資金繰りに強い経営体質を作る基礎講座 2 |
4.資金繰り悪化の表面的な原因と本当の原因
資金繰りが苦しくなった表面的な原因
「設備借入金の返済が先月から始まったから」、「銀行が借入金の借換えに応じてくれなかったから」、「中小企業金融公庫から借り入れる予定だったが、延びてしまっている」
「賞与資金の借入れを申込んでいたのだが断られたので」、「春の仕入れが多かったが、その手形決済が今月から始まったから」など
これらの答えはいずれも間違いだとはいえないのですが、実は本当の原因ではなく、結果なのです。
確かに資金繰りが悪化するのは、このように金融機関に返済ができないとか融資が受けられないという状況に表れますが、実は、その奥に、このような借入れに頼らざるを得ない状況を作った経営活動上の原因があるはずです。その原因をしっかりとつかんで、経営上の対策を打っていかない限り資金繰りの改善はないことに注意して欲しいのです。
5.赤字の垂れ流し
赤字は資金繰りを悪化させる最も本質的な原因です。赤字がでているうちは資金繰りの改善は決してありません。一日も早く赤字経営から脱出し、黒字経営に転換しなければなりません。
大まかに言って、年間1,000万円の赤字が出たとすると1,000万円の資金が不足します。掛売りや掛仕入れなど、売上時期と回収時期、仕入時期と支払時期の不一致の問題もあるので若干の誤差はありますが、これを別に考えれば「欠損の金額=不足資金額」なのです。すなわち、「収益−費用=利益」ですから、「収益=収入」「費用=支出」と考えれば、欠損額がそのまま不足資金額となるわけです。
仮に1,000万円の欠損が3年間続けば、不足資金額は3,000万円となるはずです。
しかし、ここで一つ注意しなければならないことがあります。それは費用の中には減価償却費のように支出の伴わないものがあるということです。すでに述べたように、減価償却というのは、固定資産を購入した場合に、全てを購入時の費用とせずに、その固定資産が使われる期間に費用を配分することでした。
この減価償却費は費用として収益から控除されていますが、資金が出ていかない費用です。そこで欠損額の1,000万円から減価償却費を除いた額が本当の不足資産額ということになります。
6.回収と支払いのバランスの崩れ
信用取引では販売も仕入れも掛けで行われますが、売上代金の回収が遅れるほど資金繰りは苦しくなります。
仮に、現金で仕入れて掛けで販売すれば、売上代金が入金となるまで資金はこちらが負担することになります。また、先方の支払条件が締め後30日であったものが締め後60日に延びたとすると、その延びた30日分、余計に資金の負担がかかります。このように売上回収が延びた分だけ資金にゆとりがなくなってきます。
しかし、売上回収が延びた分、仕入支払いを延ばすことができれば資金の負担は軽減されます。すなわち、売上回収と仕入支払いのサイトが同じであれば、資金の負担がかからないのです。売上回収の期間と仕入支払いの期間のバランスが崩れて、売上回収のサイトが延びたり、仕入支払いのサイトが短くなったりすると資金負担が増えることになります。
バランスシートでは売上回収と仕入支払いの関係を、売上債権と買入債務のバランスで見ることができます。売上債権とは得意先に与えている信用で、売掛金や受取手形の合計をいいます。また、買入債務とは仕入先から受けている信用で、買掛金と支払手形を合計したものをいいます。売上債権が買入債務の増加率以上に増加している場合には、その分資金が不足したことを示しています。
7.在庫の増大
在庫が増えるほど資金繰りは苦しくなります。
「在庫はお金」といわれますが、その通りです。在庫が増えるということは仕入れた商品が売れずに残っていることですから、「お金が在庫の形でたまっている」と考えていいのです。だから在庫が増えるほど資金繰りは苦しくなります。
在庫というのは、いうまでもなく得意先のために準備しておく商品や原材料、仕掛品などです。注文を受けてから作ったり、仕入れたりするのでは納期が長くなって顧客の要請に応えられないから、あらかじめ準備しておくものです。言い換えると、得意先のために当社が資金を負担しているわけです。
あらゆる種類の商品を多量に持っていれば、顧客のどんな要請にも応えることができます。しかし、多くの種類の商品を多量に持つほど、回転が悪くなり、デッドストックとなる可能性も大きくなります。デッドストックは、いずれ欠損として表面化する潜在的欠損といってもいいでしょう。在庫を多く持つということは、それだけリスクを負うことでもあるのです。
反対に、資金負担を少なくする上から在庫を絞り込めば、顧客の要請に応えられずに販売のチャンスを逃してしまうというリスクも大きくなります。
顧客のニーズを判断して売れ筋商品を適量に在庫として持つことが販売効率や資金効率を高める決め手です。
8.設備投資の失敗
投資の失敗のうちでも、設備投資の失敗は資金繰り悪化を招く代表です。過剰投資で倒産に至る例はよく聞くところです。
設備投資を行うにあたって、全額を自己資金で用意できればいいのですが、借入金で設備投資をした場合にはその返済原資が必要となります。設備投資から生じる収益で借入金の返済が可能であれば問題はないのですが、設備投資から計画通りの利益が上がらなかった場合には資金不足となります。
設備借入金の返済原資は、設備が生み出す利益にこの設備の減価償却費を加えた額(これを自己金融といいます)です。この自己金融額が借入金の返済額を上回っていれば、ひとまず資金繰りを悪化させることはありません。
しかし、計画していた売上が見込み違いで達成できなかったり、経費が余計にかかってしまったり、設備がうまく稼働せずに製品の不良が多発してしまったような場合には、返済額が自己金融額を上回ってしまい、返済資金に不足をきたします。
9.売上債権の貸倒れ
得意先が倒産すると、その得意先に対する売掛金は回収できません。また受け取っている手形も決済されません。これが貸倒れです。
ところで、貸倒金額のうち、割引きしてしまっている手形については決済日までに買い戻さなければなりません。すなわち振出人が倒産してしまって、決済能力がないのですから、割引人が代わって決済しなければならない義務が発生するわけです。これを割引手形の買戻しというのですが、この資金手当ができないと当社が銀行取引を停止されてしまいます。これが連鎖倒産です。よく、「連鎖倒産は避けられない」といわれますが、決して避けられないことではありません。倒産の危険があるような危ない得意先と取引を続けていることが問題なのです。
危ない取引先と知りながら、売上を確保するために取引を止められずに貸倒れに至ってしまうケースがほとんどです。危ない得意先との取引は共倒れの危険性をはらんでいるのです。長引く構造不況で、多くの企業が業績悪化に陥っているときだけに、目先の売上だけを狙った危ない得意先との取引は見直しましょう。
取引を深めることによって、相互に成長し合えるような得意先が良い得意先です。日頃から取引先の調査や債権管理をきちんと行って、安全・優良な得意先との関係を深めるようにしたいものです。